社団法人 日本電気制御機器工業会

AGC旭硝子(株)におけるセーフティアセッサ/セーフティベーシックアセッサ資格認証制度活用事例事例紹介

AGC旭硝子(株) CSR室リスクマネジメント統括グループ 髙岡弘幸氏へのインタビュー
インタビューア:NECA制御安全委員会 柿崎委員

柿崎
NECA制御安全委員会の柿崎と申します。本日はお忙しいところインタビューにお応えいただきありがとうございます。NECAは、経済産業省基準認証研究開発事業として、明治大学(名誉教授)の向殿政男先生、日本認証(JC)、安全技術応用研究会(SOSTAP)と連携して、2004年に国際規格に基づく安全技術を体系的に学べ、現場に機械安全の考え方を根付かせる人材育成の仕組みとして、セーフティアセッサ資格認証(SA)制度を、2009年にはセーフティベーシックアセッサ資格認証(SBA)制度を創設しました。これまでの10年間の活動を振り返りつつ、さらなる普及およびグローバル展開を図っていきたいと考えております。
(参考:http://www.japan-certification.com/certifying-examination/saftiasessa/
本日は、SA制度を積極的に取り入れ機械安全を推進されている、AGC旭硝子(株)CSR室の髙岡様においでいただき、いろいろとお話を伺います。AGC様では、グループ企業のみならず、機械の設備設計・製作を行う外部のビジネスパートナー(BP)にも計画的にSA/SBAの資格保有者を増やされ、災害減少の実績を上げていらっしゃると伺いましたが、AGCグループで、SA制度を導入しようと考えられたきっかけは、どのようなことだったのでしょうか?

SA制度導入の経緯と展開について

安全なくして生産なし
髙岡
AGCグループは、ガラスをコアテクノロジーとする重厚長大型の製造業です。生産現場の機械設備はエネルギーの大きいものが多く、作業者が巻き込まれたら、死亡や重篤な災害となってしまいます。私が安全担当になった2004年頃は、まだまだ設備の安全化が進んでおらず、まず機械安全を社内に普及させることが安全確保の第一歩であると考えたのです。2001年に厚労省より「機械の包括的な安全基準に関する指針」が発信されていましたが、指針でもあり、まだまだ国内での認知度も低かったのです。機械安全を推進していくためには、ISO/IEC規格に準拠した設備設計と設計時のリスクアセスメントが重要ですが、AGCグループ内にその技術蓄積は乏しく、社内で教育することは不可能と考えました。ちょうどその時に弊社が会員となっている安全技術応用研究会から、SA制度を紹介され、この制度を社内に取り入れることで機械安全を普及していくことを検討しました。
柿崎
その計画は、社内でスムーズに認められ、SA制度は順調に普及していったのでしょうか?
髙岡
機械安全に関する社会的な認知度も低く、社内の反対も非常に大きかったです。安全管理といえば、まだ危険予知やヒヤリハット活動、安全パトロール等が中心で、災害報告書を社内で横展開する再発防止型安全が主流であった頃ですので、機械安全や設計リスクアセスメントの考え方はほとんど理解されませんでした。特にBP各社は、「またAGCが難しいことを言い出した」という受け止めで、賛成者は皆無でした。
対談風景
柿崎
機械安全の考え方がまだ知られていなかった頃のことですね。そのような難しい状況の中で、どのようにしてSA制度を社内に展開することができたのでしょうか?
髙岡
こういった全く新しいことを実行するには、まず社内のシンパを作り、一点突破を目指すことだと考えました。私は元エンジニアリングセンターの電気担当者でしたので、とりあえずお世話になった元上司に相談しました。その方は、1992年にAGCグループの社内設備安全基準である「自動機械設備設置安全基準」を作った方でしたので、話は比較的早く通り、AGCグループとして、機械安全に取り組んでいこうということになりました。そのためにSA制度を導入することは大変有効と判断され、BP各社に対しても説明会を開催してくれ、そこで機械安全の重要性やSA制度の先進的な考え方を説明しました。最初は反対の声が大きかったのですが、その内にやってみようということになりました。結局、SA制度に出会ってから、社内でセーフティサブアセッサ(SSA)の集中講座を開催するまでには2年弱かかりました。エンジニアリングセンターのFA技能研修センターが全面的に協力してくれたことで、社内研修もスムーズに開催され、実施にこぎつけることができました。私を含めて2006年に最初のセーフティサブアセッサ資格を何名かが取得したときは本当にうれしかったです。
AGC旭硝子におけるSA/SBA累積資格保有者数推移

SBA制度の創設と導入効果について

柿崎
ご存知のとおり、もう少し基礎的なSA入門資格として、2009年にセーフティベーシックアセッサ制度(SBA)を創設し、設計者や安全管理者だけでなく、現場のオペレータや経営者・営業・総務・人事・物流といった非技術系へも対象を広げています。SBA制度は、AGC様のご要望によって創設されたと伺っておりますが、どのような経緯だったのでしょうか?
(参考:http://www.japan-certification.com/certifying-examination/saftibasicasessa/sba/
髙岡
国内は、SA制度が普及してきましたが、エンジニアリングセンターや環境安全を中心とした設備供給側の資格取得が中心でした。しかし、AGCグループの設備寿命は非常に長く、板ガラスを製造するフロートという設備は、いったん火を入れると20年間火を落とさずに稼働し続けます。それ以外の設備も製造に引き渡された後、10年、20年と生産に使用されます。その間に生産性や品質向上、また原材料や生産品の変更などにより、設備改造が行われます。実はこれが日本の製造業の強みの源泉でもあるのですが、この改造の際に機械安全上危険な改造が行われている事例があり、そのことが原因で災害が発生することも目につくようになってきました。これを防止するためには、製造の管理監督者にも機械安全の基礎だけは理解してもらう必要があると考えました。また2008年に当時のCTO(技術統括取締役)に「髙岡君、国内の機械安全のレベルが向上してきたことはわかるが、アジアはどうするつもりか」と質問されました。アジアの関係会社に安全の監査にいく機会も多かったので、アジアの機械安全がほとんど手つかずになっていたことは十分認識していましたが、改善に着手できていませんでした。この2つの問題を解決するため、SSAより易しいレベルの機械安全資格を創設するようNECA/JCに要望した結果、SBA制度が実現したのです。
柿崎
SBA制度を導入した効果はございましたか?また、アジア以外のたとえばブラジルなどの生産拠点へも広げられるのでしょうか?
髙岡
2008年にNECA/JCに依頼して、国内では2010年から、アジアでは2011年からセミナーと資格試験を実施していますので、まだそれほど年数は経っていません。しかし、AGC旭硝子(株)では、1992年から「設備事前安全審査制度」といって、最終的に工場長の承認がなければ、設備稼働ができない仕組みを構築運用していました。この第1段階の審査に設計リスクアセスメントを導入したのですが、これをアジアにまで普及させるためには、どうしてもアジアで機械安全教育を実施する必要がありました。国内同様のレベルの設備事前安全審査制度を運用するためには、SA/SSAの育成が必要ですが、とりあえずSBAをアジアに普及させることは大きな意味があったと考えています。2013年に定めた2020年までに実現する安全の中長期目標の1つの項目として、「事前安全審査制度対象設備の100%実施」を上げており、その重要な手段の1つとなっています。また、将来的に今後ブラジルの生産拠点などへもSBA制度を広げていきたいと考えています。
 
AGC(中国大連)でのSBA講習会(2011年)
AGC(中国大連)でのSBA講習会(2011年)
AGC(タイ)でのSBA合格証授与式(2013年)
AGC(タイ)でのSBA合格証授与式(2013年)
AGC(韓国)でのSBAフォロー研修(2014年)
AGC(韓国)でのSBAフォロー研修(2014年)

安全はコストではなく投資

柿崎
まだまだ日本の経営者の中には、安全はコストと考え、投資と考えられないマネジメント層が多いと聞きますが、AGC様の安全対策はトップダウンで進められたのでしょうか?
髙岡
その通りです。トップの理解がなければ、このような中長期的な施策は実行できません。社長の石村が設備部門出身で、2005年関西工場長時代にガードが不足していて、BP作業者が右腕を切断する重篤な災害が発生した苦い経験もあり、経営層が機械安全を後押ししてくれたことは大きいです。またAGCはグローバル企業ですが、その国ごとに安全規格や法律を適用して設備設計するのではなく、世界標準のISO/IECに準拠した設備をグローバルに導入することがAGCのポリシーであるといってくれていることは大きな力です。明治大学向殿名誉教授がおっしゃっている「安全はコストであると考えるのではなく、投資である」と考えなければ、このポリシーは成り立ちません。
柿崎
機械ユーザー企業として機械安全を熱心にやってこられた効果はありましたか?
AGCの日本アジアにおける挟まれ・巻き込まれの災害推移
髙岡
このような施策は、1年2年では成果は出ません。長く実行し続けることが重要だと思っています。しかし、会社としては大きな資源(費用、時間、マンパワー)を投入しているので、効果の評価は重要だと思っています。このグラフは、AGCにおける日本アジアでの「挟まれ巻き込まれ」の災害件数とその割合の推移ですが、このグラフを見ていただければSA制度を導入して機械安全に注力してきた2006年以来右肩下がりに「挟まれ巻き込まれ」の災害件数とその割合が減少していることがわかります。「挟まれ巻き込まれ」がすべて機械要因とはいえないのですが、機械安全に注力してきた効果はあったと確信しています。また、社内で機械安全が共通言語となり、まずリスクアセスメントを基準に考えること、リスクアセスメントの結果の安全方策は、3 step methodに基づいて実施することなどが理解されるようになってきました。BPはその売上の100%がAGC向けというわけではないので、AGC以外の企業の仕事をする際に「機械安全に強い」ということが武器になりつつあるといってくれています。このことは私にとっては本当にうれしいことで、このようなことから日本の機械安全が推進していってくれれば、望外の幸せと思っています。
安全対策を施した生産ラインにおけるチョコ停停止率と直生産枚数の推移

安全推進のポイント

柿崎
髙岡様は長年コーポレートの安全統括をご担当されてきましたが、現在のお立場で最も重要視されていることは何でしょうか?
髙岡氏
髙岡
コーポレートの仕事はすべて同じだと思いますが、一言で言えば「戦略性」です。問題点(不安全な機械が多く、災害が減少しない)を見つけ、その解決策(設計リスクアセスメントを設備事前安全審査制度の中に入れる)とその手段(機械安全を実現するためにSA/SBA資格制度を社内に普及させ、ISO/IEC規格に準拠した設備を導入する)を考え、実現のための筋道を立てて実行することだと思います。長くといってもまだ10年しか担当していませんが、1つのことの結果を出そうとすると少なくとも10年はかかると思います。特に安全はトップダウンだと思いますので、トップのバックアップは不可欠です。その観点で、トップを味方に付けるためにトップに提言することをセーフティアセッサの資格要件の1つとされていますが、その意味は大きいと思います。

厚生労働省通達への対応

柿崎
今年の4月に、厚生労働省より、「設計技術者・生産技術管理者の機械安全教育の推進」が要請される通達(基安発0415第3号、基安安発0415第1号)が発信されましたが、AGC様としては、この通達にどのように対応される予定でしょうか?
(参考:http://www.neca.or.jp/assessor/tsutatsu-20140415/
髙岡
2005年にAGCが考えたことが、この通達によって日本の中に浸透していくものと考えています。機械安全を推進していくためには、まず教育が重要です。基安発0415第1号「設計技術者・生産技術管理者に対する機械安全に係る教育に関し留意すべき事項について」には、SLA/SA/SSA資格取得者は、それぞれの講習・資格の範囲内において、十分な知識を有しているものと見なすと記載されています。AGCグループでは、SA/SSA資格の取得を機械・電気設計技術者に推奨していますので、この施策を継続していきます。生産技術管理者に対しては、SA/SSAはやや過重であり、15時間のカリキュラムが定められているので、SBAを軸にして、プラス1日の講習を行い、この基安発0415第3号に準拠していくこととし、初回研修を10/22-23に社内開催する予定です。この基安発によって、日本の機械安全が推進、浸透していくことを期待しています。

SA/SBA制度への期待

柿崎
今後、SA/SBA制度に期待されることはどのようなことでしょうか?
また、日本の企業への機械安全の浸透について、どのようにお考えでしょうか?
髙岡
SA制度は、間違いなく日本における最も進んだ機械安全資格者制度です。現在はアジアにSBAのみしか展開できていませんが、設備事前安全審査制度を円滑に運用するためには、将来的にSA/SSAの資格もアジアに展開していただきたいと思っています。そのためにはSA制度の再構築を行い、より体系的な制度として改訂する必要があるでしょう。さらにSBAと同じように現地語での研修が実施できるような教科書や資格試験の仕組みの構築も必要です。アジアの人たちは、日本よりも「資格」ということに強い魅力を感じています。SA制度は世界に通用する日本発の機械安全資格者制度として、十分機能できる基礎は持っていると思います。さらにはSA制度そのものがJIS規格やIEC規格に採用されることにより、日本の機械安全は世界で認められる地位を確保することができるでしょう。日本の製造業は、衰退してきたといわれていますが、まだまだ強い分野が多いです。しかし、製造設備や製造方法だけを海外に移転するのではなく、安全の仕組みも一緒に海外に展開することによって、本当の意味で強い日本の製造業のグローバル化が実現するのだと考えています。その際には、SA/SBA制度が大きな武器になると思います。そのためには、日本の政府との連携も重要ですし、他の工業会との連携も不可欠です。SA制度の発展と共に日本の機械安全、日本の製造業のグローバル化がますます進展することを心から願っています。
柿崎
本日のお話を参考にして、今後SA/SBA制度のますますの発展に尽力していきたいと思っております。また、AGC様の今後のご発展を期待いたしまして、インタビューは終わりに致します。本日はお忙しいところ、とても貴重なお話をお伺いさせていただき、本当にありがとうございました。
 
AGC本社にて:サッカーW杯2014協賛ガラスルーフベンチ
AGC本社にて:サッカーW杯2014協賛ガラスルーフベンチ

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