社団法人 日本電気制御機器工業会

講演① IoT時代における機械安全を取り巻く国内外の動向

明治大学 名誉教授 向殿 政男

向殿 政男

本日は機械安全をテーマにお話しします。流れは2つあります。機械安全が今どんな状態でこの先どうなるか?という視点。もう1つは、安全は包括的に広く見なければいけない。機械安全というのは安全全体から見るとどういう関係になっているのか?横と縦の展開で話をさせて頂きます。

モノ作りの安全には、広く見ると3つの立場があり、その上に1つの理念・思想があると私は考えています。3つの立場とは、「安全なものを作る立場(自然科学)」。「安全を管理・規制、そして安全を守る立場(社会科学)」。「安全を使う立場(自分の身は自分で守る:人文科学)」。この3つの立場が協働して、1つの理念の元に安全を実現しています。今日の話は、1番目の立場の中でも特に機械安全の技術的側面というのを中心にお話し致します。

機械安全の歴史を考えますと、まず本質的安全設計により機械そのものを安全にする、次に、これらの機械に安全装置をつけよう、という流れになりました。そして、次に入ってきたのがコンピュータです。そして、その次の4番目が何かというと、IoTです。これまでの機械安全の基本は、隔離の安全、停止の安全でした。しかし今は、機械と人間が協調してモノ作りをしていこうという時代です。それがIoTの発達によって実現できる時代となったということをお伝えしたいのです。これをSafety2.0と呼ぶことにします。

例を挙げますと、従来と異なる「止めない安全」の実現です。従来は動くか止めるかの2値論理でした。IoTによって、作業員がその人のスキル情報を持つタグを携行することで、機械が判断して動かすスピードを調整する機能が実現可能です。すなわち多値論理の話で、稼働率や生産性を向上させることが出来ます。

もう1つは安全の見える化です。IoTが発達することで、設備や機械を常に監視し、今がどういう状況かをいつでも確認できるようになります。これによって、安全への効率的な投資が可能となります。

他には、フェールセーフ。機械が壊れたり故障したりしたときに、安全側に止まれるように設計するのがフェールセーフの概念です。これからは、例えば自動車の運転などで機械側が人間の状態を判定して、止めたりよけたりするのが可能になります。フェールセーフというのは、人間も含めた協調が生み出した協調安全というのがあり得るのではないかと思っています。

では、Saftye2.0の利益は何でしょうか?速度の調整を行う止めない安全により、効率向上に繋がります。また、安全の見える化によって、安全への効率的な投資が可能になります。コラボレーションフェールセーフ(協調安全)ということで新しい市場を作れるのでは、と考えています。

セキュリティの問題も忘れてはいけません。今までは、物理空間(作業場)とネット上の情報空間は分離されていたため、情報空間の中では、情報が盗まれることはあっても人が死ぬことはないだろうと思っていました。

しかし、これらが接続していくこれからは、そうはいきません。人命を大事にするセーフティと機密性を大事にするセキュリティが融合/協調する時代だと思います。機械安全では、リスクゼロはあり得ません。同じく、セキュリティでも完璧なんてことはあり得ません。その対応を、機械安全では許容可能なリスクのレベルで定義しています。こういう概念はセキュリティにも使えるのではないかと思っています。

私は「安全学」というものを日本から提案したいと考えています。そのために、Sefenology(セーフノロジー)という単語も作りました。安全とはそもそも総合的な学問であると私は考えています。そういう意味で、安全工学でもなく安全科学でもない、安全学と呼んでいます。安全を包括的・総合的・体系的にものを見ることで、技術者や管理者が協調できます。つまり、安全とは何なのか、ということがしっかり分かるというのが大事だと思います。これまでは3つの立場の役割がしっかりと区切られていました。しかし、これからは区切りを超えて協調していくことが安全学の考え方です。すなわち、安全学のキャッチフレーズは『協調安全』『和の安全』です。これからは安全学に基づいて広く安全設計をしていく時代になると思います。

そんな時代に、もう1つ申し上げたいのは、企業が安全を重視し、日本の社会を安全・安心な国にするには、企業のトップの概念がものすごく大事だということです。私は、安全をリードできるのは企業のトップだけだと思っています。ですから、企業のトップには安全はコストではなく先行投資だという概念を持って頂きたいと思っています。トップの理念の元に皆が動いているという企業が理想です。現場の人がトップに安全の情報をわかりやすく説明し、それによって生産性が向上するということがお話できる、そのためには、我々が実施しようとしているSafety2.0は大変有効な道具になると思っています。

もう1つ大事なのは、安全をしっかり理解している人が現場にどれだけいるか?安全資格者というのは大変重要だと思います。その信頼によって、その企業のものを買いましょう、という事になる。この信頼というのが非常に重要です。私は安全と安心をつなぐのは信頼であると思っています。

まとめますと、安全に関して新しい時代に突入しました。そしてその方向は何かというと、技術・人間・組織を統合し協調した安全だと思っています。安全学という広い視点と、三者が協働するという意味の探求、それがSafety2.0の時代。やっとIoTの発達で可能になってきました。以上をお伝えして、私の話を終わりたいと思います。ご静聴、どうもありがとうございました。

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