施設園芸と農業に関する事業開発の助言を、東アジア・中東を中心に行ってきた。今回は、スマート園芸について、欧州・北米・東アジアでの例、近い将来の見通し・ボトルネック・提言を報告する。
施設園芸のイノベーションに必要な技術領域は、下記の通りである。
技術開発時の目標設定は、生産者の利益を第一に考えなければならない。ここで言う利益とは、“PPP”すなわち、People(人)・Planet(地球環境)・Profit(利益)のバランスを考慮する必要がある。
技術イノベーションの目的は、下記の通りである。
本講演では、省エネルギー化の例として3種類の最新システムを紹介する。
半閉鎖型温室では換気窓をなるべく閉じ、CO2濃度を高く保つことで、収量を上げることができる。また、光・温度を適切に保つことができれば、格段に効率を上げることが可能である。たとえば、熱帯では栽培が難しかったイチゴやトマトの栽培も可能になった例もある。
さらに、外気と温室内の空気を混合し、CO2濃度を高く保ち、水・肥料の混合割合を調整することで、省エネルギー化と収量の改善が見込める。このシステムはオランダでも最新のシステムとされ、北米で同様のシステム導入が増加し ている。
オランダで20年前に開発され、北欧・北米・中国に広がり始めた省エネシステムである。
このシステムは、粘土層の間にある、帯水層に2本の井戸を掘り、それぞれの井戸に温水と冷水を保存し、冷暖房に使うことで、4倍のエネルギー効率改善が見込める。さらに冷暖房用の燃料も削減できるので、環境影響への低減も可能となる。
2013年には中国でも導入実績があり、省エネ効果が認められた結果、中国全土への展開が決定した。
火山などの温水を温室暖房に活用する。地熱エネルギーは、井戸の数により規模を調整できることがメリットである。天津(中国)の例では、深さ2kmの井戸を11本掘り、30haの温室を暖房している。
ドイツ、オランダ、中国では2〜3kmの井戸を掘削する必要があるが、火山国ではもっと浅い井戸で十分である。日本は、火山が多く地熱が豊富なのにアイスランド・ドイツ・ケニアよりも、地熱利用が進んでいないことは残念に思う。日本にとって、技術と潜在力の揃った代替エネルギーなので、地熱エネルギーの活用が進むことを期待する。
技術のイノベーションだけではなく、マーケット分野でも新たな流れが出てきている。そのキーワードとして、以下の項目が挙げられる。
特に旧来の複雑なサプライチェーンからEコマースや生鮮食品スーパーなど、生産者と消費者を直接結びつける新たなサプライチェーンが、日本だけでなく、アジアでも増えてきていることが注目される。
日本の特徴は下記の4点が挙げられる。
植物工場は、大きな可能性はあるが、現状では実験レベルといわざるを得ない。温室農業での主要生産物に対して は、太陽光を人工光に置き換えることは、簡単ではなく、研究開発段階である。実態よりも報道が先行しているのが現状と感じている。
日本の人口は減少傾向だが、世界の食料問題は、人類全体の問題であり、残された時間は少ない。食糧問題への対処は先進国の責務であり、今ある技術を早く使って、より改善すれば、投資を抑えることが可能である。このような状況では、日米欧で重複した開発は避けるべきで、オランダには世界での施設園芸の経験があり、各国の協力こそ重要である。