(免責事項)本解説はNECAで内容を保証するものではありません。 2008年9月1日 Ver.1
近年、EUの環境に関する規制により、企業はこの対応に追われています。
この規制については、その種類によって拘束力が異なりますので、対応のために知っておく必要があります。
関連するものについて簡単に解説します。
1.EU規制の種類について
EUの規制には、規則、指令、決定、勧告及び見解の5種類があります。その概要を,以下に示します。
(1)規則:Regulation (REACHなど)EUの規則は、欧州連合の加盟国の法令を統一するために制定され、その国に直接の効力を持ち、
個々の国に効力をもたらすための国内法を必要としません。すべての国内法に優先します。
規則は次の2つに区分されます:
・基本規則:ある事項を統制する本質的なルールを確立し、通常議会によって採択。
・執行規則:技術的にこれらの原則を整理し、EC条約の条約211条を基礎にして委員会と議会によって採択。
(2)指令:Directive (RoHS、WEEE、ELVなど)EUの指令は、含まれている目的が国内法に置き換えられたときにのみ各国に効力を持ちます。
EU加盟国によって作成された(相互に束縛される)集団的決定であり、欧州閣僚理事会と欧州議会においてその国の閣僚により可決します。
なお、国内法への置き換えに際し、加盟国にはある一定の裁量権が与えられています。
そのため、すべての加盟国の法令が完全に同一になるわけではありません。
指令は、国内法の統一ではなく、調整を目的とするというのは、そのためです。
指令は、加盟国に一定の判断権限を与え、緩やかな統合を実現するために適した法令ですが(別の観点から述べるならば、国内法の統一が困難な場合に制定されます)、特に、域内市場の分野において多用されています。
また指令は、定められた期間内に国内法に置き換えられなければならない(EC条約第249条第3項及び第10条第1項参照)ということも決められています。
(3)決定:Decision欧州連合の決定は、その当事者(加盟国、会社又は個人)を対象にして具体的な行為の実施あるいは廃止等が直接的に適用します。
決定の採用のための立法手続きは、課題となる事項により、共同決定、賛成、コンサルテーションの3つに分類されます。
(4)勧告:RecommendationEUの勧告は、加盟国、企業及び個人等に一定の行為の実施を期待することを欧州委員会が表明するものです。
拘束力はありません。
単に義務的な力の欠如で指令と異なっているだけで、加盟国の立法の準備を目的とする間接的な法律文書です。
(5)見解:OpinionEUの見解は、特定のテーマについて欧州委員会の意思を表明したもので、拘束力ありません。
*以上の5つの法令の性質・効力は、EC条約第249条内で定められており、まとめると下記の通りである。
法令名 | 相当する
国内法 | 対象者 | 法的拘束力 | 直接的効力 |
規 則 | 一般の法令 | 加盟国、私人 | すべての点において有 | 有 |
指 令 | 一般になし | 加盟国 | その目的に関してのみ有 | 加盟国が置き換えを怠っており、規定が無条件かつ明確にさだめられている場合は有 |
決 定 | 行政規則 | 主として私人、加盟国
(通常、対象者を限定
して発せられる) | 対象者に対してのみ有 | 有 |
勧 告 | 行政措置 | 私人 | なし | なし |
見 解
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2.EUの法体系について
EU(欧州連合)は,経済的な統合を中心に発展してきた欧州共同体(EC)※)を基礎に、欧州連合条約(マーストリヒト条約)に従い、政治・経済・司法・軍事等の社会的なあらゆる分野での統合を目指す国家連合体です。
※):欧州経済共同体(EEC),欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)及び欧州原子力共同体(Euratom)の3つの共同体の総称。
EUは3本の柱を束ねる「屋根」ともいわれており、その3本の柱は欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が消滅し、現在は下記のもので構成されていいます。
第1の柱:欧州共同体、シェンゲン庇護・移民政策、欧州原子共同体
第2の柱:共通外交・安全保障政策
第3の柱:刑事に関する警察・司法協力
このEUを実現・運営するための枠組みとしての法体系は、
・第1次法:条約
・第2次法:条約に従い連合の機関によって作成された規則、指令、決定、勧告、見解
というソースで構成されています。第1次法、第2次法の概要は下記の通りです。
(1)第1次法:条約(メインの条項:欧州連合の条約)EUは、条約に基づき発足し、また、条約に基づき重要な機構・制度改革がなされてきました。
これらの条約(その議定書、付属文書を含む)は第1次法とよばれ、EUの憲法として、
①EUの目標、重要な諸原則、
②機構制度、
③立法制度、
④諸原則の重要事項について、
また、⑤EU市民の権利について定めています。
(2)第2次法:規則、指令、決定、勧告、及び見解第1次法が定める目標を実現し、第1次法を補うために、EUの諸機関が第1次法に基づき諸機関が制定した法令や欧州裁判所の判例法も重要な法源であり、第2次法とよびます。
3.EC環境政策の目的と原則
ECの環境政策は下記の目的と原則に基づいておりますので、 これを知っておくことが環境規制を理解する上で大切です。
(1)ECの環境政策の目的(EC条約第174条第1項)・環境の保全、保護、改善
・人間の健康の保護
・天然資源の慎重かつ合理的使用
・地域または世界環境問題に関する国際的取組みの促進
(2)ECの環境政策の原則(第174条第2項第2文)・環境破壊を事前に予防すること(予防・防止原則)
・環境破壊は、まず、発生源において取り除かれるべきであること
・その費用は汚染者(汚染国)が負担すべきであること
参考文献
日本電子株式会社 松浦徹也
株式会社 堀場製作所
平成国際大学法学部 入稲福 智
東京大学 中村民雄 「EU RoHS & WEEEの動向」
「有害元素分析セミナー テキスト」
「EU法講義ノート 2006」
「EU法の挑戦と比較研究」